【3211】 ○ 松尾 昭典 (原作:松本清張) 「松本清張の坂道の家 (1983/02 日本テレビ) ★★★★

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原作に忠実に作られていて良い。坂口良子・長門裕之共に体当たり演技。

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「松本清張の坂道の家」['83年/日テレ・火曜サスペンス劇場]坂口良子/長門裕之
「坂道の家」ks.jpg「坂道の家」011.jpg 寺島吉太郎(長門裕之)は、場末の町で地道に小間物屋を営んでいたが、ある日、彼の店に今まで見かけない女性が店を訪れる。吉太郎はその女性・杉田りえ子(坂口良子)に何となく好意を抱き、持ち合わせのなかった彼女が欲しがっていた店のセー「坂道の家」坂道.jpgターを渡してやる。杉田りえ子は、ホステスとして働いた金を実家に送金し「坂道の家」02.jpgながら質素な生活を送っていることがわかり、吉太郎は、親子ほど年の離れたりえ子に惚れてしまう。りえ子の勤めるクラブ「キュリアス」に夜な夜な通い詰めるようになり、これまで堅実だった吉太郎の生活は一変し、預貯金はどんどん減っていく。それでも吉太郎はりえ子にのめり込んでいき、彼女にクラブをやめさせるため、坂道の一軒家を賃借してそこに彼女を住まわせるが、そこからさらに、りえ子に執着するがゆえの吉太郎の蟻地獄が始まる―。

「黒い画集」1.jpg「坂道の家」文庫.jpg 松本清張による原作は、「週刊朝日」1959(昭和34)年1月から4月まで、「黒い画集」第3話として連載され、1959年4月に単行本『黒い画集1』収録の一編として、光文社より刊行されています(後に『黒い画集』('71年/新潮文庫)に第7話として所収)。

 この、1983年2月8日、日本テレビ系「火曜サスペンス劇場」枠で放映された坂口良子・長門裕之主演の「松本清張の坂道の家」は4回目のドラマ化作品で、視聴率21.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。その後、1991年にTBS系「月曜ドラマスペシャル」枠で黒木瞳・いかりや長介主演でドラマ化され(視聴率20.8%)、さらに、2014年にテレビ朝日系「松本清張二夜連続ドラマスペシャル」の第一夜として尾野真千子・柄本明主演でドラマ化されています。黒木瞳・いかりや長介版も尾野真千子・柄本明版もドラマ関係の賞を受賞していますが、やはり原作がいいのでしょう(演技系の受賞は柄本明だったが、りえ子役は女優がやりたがる役かも)。

•1991年「松本清張作家活動40年記念・黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介
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•2014年「松本清張〜坂道の家(テレビ朝日)」尾野真千子・柄本明・小澤征悦・渡辺えり
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 坂口良子・長門裕之版は比較的原作に忠実に作られていて、真面目だった吉太郎が若いりえ子に溺れていく前半から中盤にかけてのどろどろした愛憎ドラマ部分と(坂口良子・長門裕之共に体当たり演技といった感じ)、すでに吉太郎が不審死を遂げて、なぜこうなったかというミステリ部分の終盤に分かれています。

 吉太郎が殺害される、その伏線として、吉太郎がりえ子にビールを飲ませて風呂に入れるという殺意が感じられる折檻をするのは原作と同じ。ただし、ドラマでは冒頭に、病院の診察室でりえ子が医者に心臓が弱いことを示される場面がありますが(タイトルバックは胸部レントゲン写真)、これは原作にはなく、ドラマではりえ子をはっきり心臓の持病持ちにしたことになります(これはこれで筋が通っていたのでは)。

「坂道の家」0i1.jpg石田純一.jpg ドラマでは、りえ子の自白シーンの回想場面で、りえ子の同郷の恋人・山口武豊(石田純一)がりえ子に「ヤツがやろうとしていることを逆にやってやれと」と殺害を唆し、心臓麻痺というその方法まで示した場面があり、山口がかなり"悪者"になっている印象もありますが、原作を読み直してみると、ラストのりえ子の漢字・カタカナ書きの調書の中で、吉太郎が自分に殺意を抱き、心臓麻痺で死んだように見せかけようとしたのを、逆に利用したのは山口が考え出したとありました(清張作品には謎解きを調書スタイルにしているものがいくつもあり、これもその1つ)。

「坂道の家」大地1.jpg こうした点も、原作に忠実に作られていて、いいと思いました。違った点と言えば、原作では事件当時、坂道の家の煙突から煙が出る時間(風呂が炊かれる時間)がいつもと違ったと証言するのが、向かい側の丘の家に住む浪人生だったのに対し、ドラマではさすがにもう風呂炊きで煙突から煙が昇る時代ではないということからか、風呂の覗き見の常習犯が証言するようになっていて、その風呂を覗く男を大地常雄(後の大地康雄)が演じていました。

「マルサの女」大地1.gif「深川通り魔殺人事件」('83年.jpg 大地康雄はこの年の7月、「深川通り魔殺人事件」('83年/テレビ朝日)(同名事件を基にしたノンフィクション)の主役の殺人犯役を演じて注目され(実際の犯人像は藤原新也『東京漂流』('83年/情報センター出版局)で見ることができるが、大地康雄と少し似ているか。当時「本人を出した?」という問い合わせがあったとか)、続いて伊丹十三監督の「マルサの女」('87年/東宝)の「マルサのジャック・ニコルソン」こと伊集院役でブレイクすることになりますが、この時はまだ無名時代だったのだなあ。

「坂道の家」0.jpg「松本清張の坂道の家」●監督:松尾昭典●プロデューサー:嶋村正敏(日本テレビ)/田中浩三(松竹)/樋口清(松竹)●脚本:宮川一郎●音楽:三枝成章●原作:松本清張●出演:坂口良子 (杉田りえ子:クラブ「キュリアス」のホステス)/長門裕之 (寺島吉太郎:小間物屋)/石田純一 (山口武豊:りえ子の同郷の恋人)/正司歌江(寺島の妻)/永島暎子 (さゆり:「キュリアス」のママ)/梅津栄(おでん屋台)/大地常雄(南:風呂を覗く男)/唐沢民賢 (渡辺監察医)/佐藤英夫(刑事)/大場順(刑事)/杉江廣太郎(マスター)/中村竜三郎 (吉太郎を看取る医師)/森章二(不動産屋店主)/成田次穂 (りえ子の主治医)●放送日:1983/2/28●放送局:日本テレビ(評価:★★★★)

《読書MEMO》
「坂道の家」の過去のテレビドラマ化
 •1960年「坂道の家(KR)」(全10回)市川中車・水谷良重・千石規子・梅若正二・芦田伸介
 •1962年「坂道の家(NHK)」(全2回)織田政雄・友部光子・菅井きん・堀勝之祐
 •1965年「坂道の家(KTV)」三國連太郎(30分番組)
 •1983年「松本清張の坂道の家(NTV)」坂口良子・長門裕之・石田純一・正司歌江
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介・沖田浩之
 •2014年「松本清張〜坂道の家(EX)」尾野真千子・柄本明・小澤征悦・渡辺えり

1991年「黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介
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